ダンサーの腰痛【筋筋膜性腰痛】については、2014年に症例ケースをアップしています。(ダンサーと筋筋膜性腰痛)
今回は、カラダの構造とバレエのムーブメントから再びこの症例をみていきましょう。
【Contents】
筋肉は、全体を筋膜で包まれた筋線維の束でできています。
イラストでみてみると、そばやパスタの束のように見えるのが筋線維です。その束を包んでいるのが筋膜。さらに、筋膜に包まれた束をまた筋膜が包んでいる、このような構造になっています。
筋線維の束を包んでいる筋膜どうしは重なっていて、滑るような構造になっているのですが、関節や筋肉に負荷がかかった時、筋膜同士がくっついたり、筋膜が破れたりします。
ストレッチのし過ぎで逆に太もも筋肉が硬くなってしまったように感じるときは、筋膜同士が癒着している可能性があります。
筋筋膜性腰痛は、筋膜が癒着を通り越して破れてしまうと炎症を起こして痛みが発生するのです。
筋筋膜性腰痛で痛みを感じるのは、下のイラストで示したように腰回り、骨盤周囲が中心です。
けれど、自分ではそれほど痛くないと思っていても、治療時に確認してみると、『あ、、そこも痛いです』という場合が少なくありません。
つまり、一番痛みを感じるところに意識が集中しているため、他にも炎症が出ているのに気づけないのです。
特にバレエでは、骨盤周囲の筋肉は複合的に使われるので、思いもよらないところに炎症が出ていることもあります。
治療にいらした方に聞くと、今現在の状況になる前に、踊っている途中、ピキッという音が聞こえた、感覚があった、ということがあります。これが最初のサインです。
ピキッという音が聞こえていて、その場で踊るのを止めて冷やしたり、ケアしたりするケースはまだいい方で、音を聞いてなんとなくおかしいと思っていても、そのまま踊りを止めなかったケース、その後何日も腰回りに不調を抱えながらレッスンやリハーサルを続けてしまうケースは少なくありません。
痛みや違和感を感じた後、ほっておかないこと
結局はこれが一番大切なのです。
音を聞いたのが舞台直前だと簡単に降板できないということもありますが、よく聞いてみると、初発に痛みを感じた後に、しっかりケアしなていないことが多いのです。
そしてその後、同じような音が聞こえて同じような場所を痛めて来院、というケースをよく診ます。
以前に痛めた箇所の筋膜には癒着が残ってしまうことがあります。そしてそれが更に周りの筋肉、筋膜を固めてしまう原因にもなるのです。そのため、症状が進んでくると、痛みや硬さだけでなく、動きにも変化が出てしまうのです。
筋膜に炎症があるのに、そのままにしておいて、特に踊らなければ、三週間から一ヶ月くらいで治っていくこともありますが、通常のレッスン・リハーサルなどをこなしていると、だんだん踊りや動きに異変が出てきます。
例えば
ジャンプの着地でピキッとなった方は、その後パンシェで骨盤が剥がれるような感じになったそうです。
グランバットマンでピキッとなった方は、スプリッツがだんだんおかしくなってきたと言います。
また、ランベルセでピキッと感じた方は、背中がパンパンに張るようになってきたと話してくれました。
筋膜の炎症が残っている場合、普通だと歩くのも大変になることもありますが、長年踊っている人とカラダがなれていて、歩くのは支障がないということは少なくありません。
そのための何かが違うと分かっていても、踊りを優先してしまいやすいです。けれど、そのうちレッスンやリハーサルで、いつものように踊れなくなり、軽いジャンプでも重く感じる…という段階になって『これはまずい』というとなるのです。
最初のサインから時間が経っているにも関わらず、治療をせずに踊っているということは、痛みのある箇所をかばって別の場所に負担をかけていることです。
別の場所に負担がいってしまった、という証拠はカラダのあちこちに出ていることが多く、結果、本来ならバランスがとれている脊柱起立筋が左右でガタガタになっていて、脊柱自体にもカーブが出ている状態がよく診られます。これは先天性の側弯ではなく、筋肉のアンバランスによる一過性の側弯です。
腰の筋膜に炎症があり、痛みが続いて踊りにくいということは、どこかに炎症がくすぶって残っている証拠です。
ピキッとなった直後ならば、痛みのある箇所中心に治療をすれば治るのですが、上に書いたように、多くの方が痛みを感じてしばらく経ち、他の箇所にも影響がでてから治療をすることが少なくありません。
そのため、腰が痛いからと腰だけ治療する、もしくは脊柱のラインを修正するまでだと、今ひとつレッスンやリハーサルに戻っても以前のような動きに戻っていけない、ということになります。バーレッスンのプリエやタンジュだけならなんとかなっても、その後のアレグロやジャンプなどは、カラダ全体のコーディネーションの上に成り立っているからです。
バレエ治療院あんじゅの治療ポイントは、最初の痛みが仙骨周辺だから腰だけというのではなく、ムーブメントに関わる部位全体を診て、治療を入れることです。
ターンアウトというムーブメントは、股関節だけで成り立つものではないからです。
炎症を治めるには施灸が効果を発揮してくれます。(消炎効果)そして鍼治療は、鎮痛効果、血流改善による筋肉を和らげる効果もあるので、施術が終わった後も効果が長く保たれます。
できれば、初発の『プチっ』が聞こえた時に治療に来てほしいところですが、それを見過ごしたとしてもしっかり治療を入れれば、思っていたよりも早く踊りに復帰できますし、その後の動きもスムースになります。
【著者プロフィール】
市川淑宥子(ようこ)
バレエ治療院あんじゅ院長
日本バレエワークアウト協会理事
芸術家のくすり箱プロフェッショナル会員
鍼灸師/フロアバレエ・バー・アスティエ講師/チェアバレエエクササイズ講師
2008年、当時はなかったバレエ・ダンスのための鍼灸治療をスタートさせ、バレエ鍼灸と名付ける。現在も踊りを続ける治療家として、またフロアバレエクラスの講師として、施術・ターンアウト、開脚改善などを展開。
○著書 『骨盤が立てばあなたの開脚は変わる』
○フロアバレエクラスは新宿にて月一回開催
○インスタグラム ballet.ange