アキレス腱周囲の痛み以外に、三角骨による痛みを抱えての来院が今月だけでも3件ありました。
全員10代前半のバレエジュニアです。
三角骨とは、私たちが元々持っている骨ではありません。本来は、距骨という骨の一部分。
それが、なぜ問題になるのかというと、三角骨があると”ポワントをはくたびにアキレス周囲に痛みを感じる”、”つま先を伸ばそうとすると痛くなる”を繰り返すからなのです。
バレエでは、綺麗に伸びたつま先がテクニックの土台です。
そのため「もっとつま先を伸ばそう」とがんばるし、レッスンでもそれを指示されます。その度に痛みを感じていると、痛みを避けようとバレエ本来の動きとは違うクセがついてしまうかもしれません。
そうなったら折角のレッスンもテクニックの向上になるどころか、元も子もなくなってしまいますね・・・
アキレス周囲がずっと痛い・・・変だな、と思って調べて見ると『三角骨ですね』と診断され、治療は鎮痛剤か湿布で終わることがほとんど。
なぜ出来てしまったのか?痛くなるのはなぜか?は教えてもらえません。
先にも言ったように、この骨は、関節の変性で作られる余分な骨=骨棘(こつきょく)ではなく、あくまでも距骨という骨の一部です。
(参考②【ほとんどの場合、三角骨は距骨後突起が疲労骨折して出来ます】『ダンステクニックとケガ』大修館書店 ダンステクニックとケガ 初版p134、3.12より)
では、なぜ本来ないはずの骨が出来てしまうのでしょうか?それも10代のバレエジュニアに。
これまで、多くのジュニアを診てきた結果判ってきたこと、それは彼女たちの現在の環境との関係が少なくない、ということです。
1)若干、早いポワントデビュー
2)体重が軽いため、筋力がたりなくても、トウシューズになれてくると立てるようになる
3)甲を出したいとつま先を伸ばそうとするあまり、アキレス腱をつめてしまう
手元にある国際ダンス医科学会の資料によると、トウシューズをはき始める時期のガイドラインの第一番目にこうあります。【決して12歳以下ではないこと】
けれど、現在の日本の現状はこれとは違っています。レッスン歴にもよりますが、幼少期から習いだしたケースで、おおよそ10歳、小学校4年生くらいになるとき始めることがすくなくありません。
10歳は、まだ筋力がトウシューズをはくのに充分でない場合でも体重が軽いため、それが筋力をおぎなって立てるようになっていきます。
踊りを習っているということは、運動神経も優れている場合が少なくありません。これらがあいまって、一年も経てば楽々踊ってしまうケースがほとんどです。
しかし、この年齢がクリティカルなポイントになるケースがあります。それは成長期にあるため骨が柔らかいからです。
どういうことか、具体例で診てみましょう。
3歳からバレエを習い始めて、10歳でトウシューズをはき出したAさんが、たまたま、距骨の後ろに少しでっぱりがあったり、とがっていたりすると、トウシューズのレッスンを繰り返すことが成長期で柔らかい骨の負担となり、後ろの一部が分離したり、骨折になっていた。これが三角骨です。
全員がそうなる訳ではなく、又、ポワントデビューから何年でそうなるかというものではなく、痛みを感じ出した時に、すでに骨折がおきている可能性も指摘されています。
最初は原因が思い当たらないため、はき始めから3、4年、人によっては10年たって初めて判るということもあります。
実は、トウシューズの構造とも関係あります。ソールの部分やポワントボックスはバレエシューズよりずっと硬く作られていますよね。
そのシューズでつま先を伸ばすのだから、力がいります。単純に甲側の指で伸ばそうとすると、それが三角骨を作ってしまう要因になりかねないのです。
特に、足指の力の強いジュニアに、その傾向が多いと診ていますが、そのままの使い方が身につくとハンマートゥやアーチの薄い足を作ることになります。
解剖学的に診ると、爪側の指を伸ばしても甲が出ることにはならないのですね。。。それどころか、それがアキレス腱を詰めるに動作になるため、その周りに痛みをもたらすのです。
そう言っても、海外のバレエ学校やスクールと同じガイドラインを実践することは今の日本の現状ではとても難しい。これらの状況を受け、今回お伝えしたいのが以下のアドバイスです。
ⅰ)アキレス腱周囲に痛みを感じていたら、レッスン後は冷やすなど、ケアをまめにする
ⅱ)3ヶ月以上痛みが続いた場合は、画像診断を受ける
ⅲ)炎症をとりのぞくための治療をうける
アキレス腱周囲の痛みが、すべて腱の断裂や三角骨であることはありません。
まず、日々のレッスンでのケアをきちんとしていきます。それは骨や筋肉が育つ大事な成長期にあるからこそ重要です。
・ヒリヒリする痛みや熱をもった痛みには、氷や冷水で冷やします
・お稽古場の水でぬれタオルをつくって冷やすそれだけでも違います
・硬くなったふくらはぎは、足首や膝の関節をほぐしてからストレッチをしましょう
痛みがオーバーワークによるものなら、これで充分、対応可能です。
けれど、痛みが3ヶ月以上続く場合には、画像をとって確認することを考えてください。
お子さんの骨の現状を知っておくことはとても重要なポイントです。
しかし、治療となると湿布だけでは足りません。
アキレス腱周囲炎でも三角骨でも、必要なのは局所の炎症を抑えることです。
これについて、あんじゅでは、鍼とお灸をつかったバレエ鍼灸で対応します。比較的早く判れば、2~3回の治療で炎症が収まるので、痛みも引いていきます。
そして、大切なのはここから先。
炎症と痛みが収まっても、同じ使い方をしていると再発の可能性が高くなります。
だからこそ、深部足底筋をつかったつま先の伸ばし方を習得することが大切です。
特に内くるぶしの下にある後脛骨筋がきちんと使えるようになること。それが強いポワントワークを支えてくれるのです。
治療院では、足首の角度や動き、伸ばし方などをチェックするのですが、深部足底筋が正しく意識できるようにサポートすると三角骨があっても痛みを感じません。
つまり、
骨の変形がすべて痛みをもたらしているのではない、のです。
けれど、骨折による分離になってしまうと、場合によって手術が必要になることもあります。
そうならないように、できる事が沢山あります。
大切なので繰り返しますね。
日頃の疲れを長引かせないこと
痛みを抱えたまま、がまんしないこと
治療時期が早ければ治りも早い
指を伸ばしても甲は出ない、と理解して根気よく修正すること
です。
バレエジュニアの現状からみた三角骨による痛みの代表例を紹介してきましたが、これで全てではありません。
一人ひとりのカラダはちがっているので、その個性による使い方が原因の場合も少なくありません。
三角骨障害の治療は
【著者プロフィール】
市川淑宥子(ようこ)
バレエ治療院あんじゅ院長
日本バレエワークアウト協会理事
芸術家のくすり箱プロフェッショナル会員
鍼灸師/フロアバレエ・バー・アスティエ講師/チェアバレエエクササイズ講師
2008年、当時はなかったバレエ・ダンスのための鍼灸治療をスタートさせ、バレエ鍼灸と名付ける。現在も踊りを続ける治療家として、またフロアバレエクラスの講師として、施術・ターンアウト、開脚改善などを展開。
○著書 『骨盤が立てばあなたの開脚は変わる』
○フロアバレエクラスは新宿にて月一回開催
○インスタグラム ballet.ange