大腿骨はダンサー、教師、インストラクターでも一般のレッスン生やジュニアでもほとんど変わりのなく丸い形をしています。
けれど、股関節の可動域には差がある。その違いはどこからくるのでしょうか?
過去の書籍『インサイドバレエテクニック』(初版1997年)では、この図が有名です。
そして
ターンアウトには、『大腿頚部の形と大腿骨がヒップソケットにはまる角度が関係している』と書かれています。
※大腿骨は、丸い骨頭の下が首(頚部)になっていて、大転子と小転子に挟まれた骨体に続きます。
インサイドバレエテクニックで書かれていることを踏まえて、バレエ治療院あんじゅにて治療のために管理保管しているレントゲン写真の分析を下に載せます。
・О脚タイプは大腿頚部が長めの傾向がある
・ターンアウトが完成しているプロフェッショナルダンサーは大腿頚部が短い傾向が診られる
・大腿頚部が短いタイプには臼蓋形成不全が多い(100%=ではありません)
・先天性股関節脱臼症タイプも大腿頚部が短い傾向がある
・先天性股関節脱臼症では、左右の腸骨の幅に差がある
・臼蓋の屋根(寛骨臼縁)が突き出すような形(煙突のような形)はО脚に多い
・突き出すような形をしていてもCE角が浅いタイプがある
・CE角が浅いと一般的には脚は開きやすい・О脚でもCE角が浅いと臼蓋形成不全であることが多い
※CE角とは、大腿骨頭の中心点から垂直に引いたラインと中心から臼蓋(ヒップソケットの端)までを結んだラインとの角度で女性は平均27~34度、男性30~32度が平均です
(変形性股関節症診療ガイドライン 日本人の各種X線計測値より)
3Dで見てみると、腸骨から恥骨へとつながっている部分(寛骨臼縁、恥骨隆起、恥骨上行枝)の厚みや形がヒップソケットの深さ浅さに関わっていると考えられます。
画像や資料などと合わせて考察してみると、О脚タイプは、大転子が横に張り出ていることが多い。
横に張り出ているのは臼蓋の屋根(寛骨臼縁)が突き出ている形と関係していると診られる。
ただ、突き出ているような臼蓋の屋根であっても、その屋根自体が浅いタイプがいる。
写真の下はО脚かつ臼蓋が浅いタイプです。
このタイプは、臼蓋形成不全で股関節痛を発症しやすい傾向にあります。
臼蓋が浅いタイプの人からは、比較的脚は開きやすかった、開脚はやりやすかったという声を聞きます。
О脚タイプは大腿頚部が長めの人が多く診られるのですが、それでも臼蓋が浅いと開きやすい傾向が多い。
レントゲンの分析のほか文献を調べると、日本人で開きやすいタイプには少なからず「臼蓋形成不全」が隠れている傾向があるとも言えます。
子供のころから開きやすかったけれど、大人になって調べたら臼蓋形成不全だったことが分かったという話からもこの二つは関係が深いと考えられます。
開きやすい=ターンアウトしやすい、になりますが、ターンアウトは股関節の可動域だけで成り立つのではありません。
けれどレッスンでは、もっと開け、開けと外に意識が向きすぎる傾向があります。
それが股関節症をより早く発症させることにつながりかねないと言えます。
これは、日本だけの傾向ではないようです。
というのも、「股関節が簡単に開く生徒がたくさんいて、それでも更に開けと言われて踊るので、股関節症になって踊りをやめる生徒がいます」とアメリカから帰国、帰省した方々から同様の話を耳にするからです。
股関節は、体重を支える大切な関節で、関節軟骨がすり減ってしまうと体重をささえられなくなり、人工関節を入れるオペをせざる得なくなります。
整形外科領域では、
・臼蓋形成不全から股関節症に移行する二次性股関節症の率が日本人では高い
・欧米では基礎疾患がない一次性股関節症(老化、体重増加による関節への負担など変形性や臼蓋形成不全などがない)が多い
と言われています。
また臼蓋が浅いのも、もともとのカラダの個性というより成長期に関節に大きな負荷をかけることが関係しているのでという研究結果も出ているようです。
つまり、「開け開け」で外側に押し出すような使い方をすることが後々の危険性を高めてしまうかもしれないということです。
大切なのは、関節に負担をかけずにターンアウトを育てていくことです。
では股関節の可動域をベースにして、他にターンアウトと関係のあるものがあります。
それが、
靭帯と筋肉
です。
靭帯については既に紹介していますが、可動域という点で再度取り上げていきますね。