有痛性外脛骨は、舟状骨の変性によって、痛みを生じる症状。三角骨は、踵の骨の上にある距骨の変性によって痛みを生じる症状です。
足の内側、くるぶしの前周辺が痛くて踊れない状態が長く続いている場合、二つの症状が想定されます。一つは、アキレス腱周囲に炎症が起きているケース、そしてもう一つの可能性がこの有痛性外脛骨です。
足部の骨は大腿・下腿と比べてやや複雑な構造になっています。
かかとを構成する骨の前に5つの骨が並んでその先に足指の骨につづいていく構造です。何故こういう構造になっているのか。それは、足の指一本いっぽんを動かし、足部全体が回るように動かすためなのです。
この両方を可能にする足部の骨、これらがまとまって働くとしっかりと体重を支えてくれる、バレエの軸を支える重要な一部になるのです。
実際には、軸は足だけで支えるのではないけれど、フルポイント、ドゥミの時、この足部には大きな重力がかかります。
軸がズレて、重力が支えられるラインから外れたらどうなるでしょうか?バレエ美本来のラインからずれてしまいますね。加えて、一部の骨に大きな負荷がかかることになる。それが痛み→ケガになっていくのです。だから、レッスンで軸はまっすぐね、と言われるのですね。
グッと前に出したい、ポワントで立つならもっと甲を出したい…踊っていたらそう思いますね。
かかとが前に出るのは、足部から股関節までのラインがつながっていてアンドゥオールするから、その結果かかとが前に出るのであり、足底から股関節まで軸がつながっているからしっかりポワントで立てるのです。
きれいなラインを目指したいのは誰も同じ。けれど、カラダ全体でなく、外から見た形だけを真似て足先の一部だけで開こうとする、立とうとすると足部の負担が増えてしまいます。
◇グリシコなど比較的硬めのポワントをはいている
◇足指の力が強いタイプ
◇甲が出ていてポワントで立ちやすいタイプ
◇体重はそこそこ軽いのに、ふくらはぎがパンパン
◇スネの前の筋肉が硬くで指も入らない
アキレス腱や足部の骨にトラブルを抱えやすいタイプには、こういう方が少なくありません。
14歳くらいまでは、体重が軽いのでポワントでもくるくる回れるし、ジャンプも高く飛べたりします。けれど、足指のチカラや甲にのる踊り方を変えずに踊っていくとどうなるか。本人も気づかないうちに足部への負担が積み重なっていきます。それが長く続いた結果、ストレッチしても硬いふくらはぎや、スネの前の筋肉が硬くて指が入りにくい状態になっていきます。
だからといって全員が有痛性の外脛骨や三角骨になる訳ではありません。治療で判ってきているのは、このような状態です。
レッスン量の増加、睡眠不足、体調管理不足からくる注意散漫、などが重なって踊っている時じくがズレて足部へ余計な力がかかってしまった、また、日常生活で階段を踏みはずした、フト滑ってしまった時に足部に外的圧がかかった、などです。
又、骨は大きさや形にバリエーションがあり、たまたま距骨の形が出っ張っている人や、舟状骨の角が少し外に出ているタイプの人がこの症状になってしまうケースがあります。
いずれも、皆さん初めのうちは痛みがあるので少しレッスン量を減らしたり、テーピングをして踊ったりするのですが、外的圧がかかって痛みがでている状態は炎症がある証拠なので、ほとんど役に立たないことが多いです。
実際の治療はどうおこなっていくのでしょうか?
先ず、痛みが長くつづく場合は、画像所見をとることが大切です。その結果、骨に分離が認められる時はオペが必要になってきます。
では、骨が分離していないのに痛みがあるのはどうしてなのでしょうか。それは、周辺を走っている筋肉の腱を変性した骨が圧迫しているため炎症がおきているからなのです。
なので、分離していない場合の治療は、この炎症を抑えることが第一になります。
画像所見では、微細な炎症は撮らないことが少なくありません。その場合、痛み止めを出されて休みなさいと言われるのがほとんどですが、炎症がある限り、ポワントをはくと痛みが出るし、痛くてドゥミやポワントにできない状態が続きます。
バレエ鍼灸で使うお灸と鍼の効果は、足部表面に残る炎症を確実に抑えます。
加えて、足指の腱につながる筋肉をほぐしていくことも重要なポイントです。アキレス腱炎や周囲炎でも同じですが、足部に痛みを抱えるダンサーは、膝下の筋肉や内転筋がとても硬くなっています。
更に必要なのは、足部に負担をかけない足の使い方に戻してあげること。炎症が収まって筋肉もほぐれてきても、以前のままの立ち方だと、再び負担がかかって痛みが再発することになるからです。骨の個性で患った場合でも同様に、負担のかからない立ち方に見直すことは、長く踊っていくためには必要です。
足の使い方、立ち方の土台はバレエの解剖学とフロアバレエ、バー・アスティエ。複雑なストレッチやリハビリと違って、ダンサーが長く馴染んできたバレエのパなので分かりやすいし、セルフケアの手法にもなります。