5歳から新体操を続けてきているジュニアに、スプリッツの左右差が直らないタイプが少なくありません。強化コースや選手コースに入っているのに、左右差があるジュニアもいます。
これも根底にある原因は同じです。以前からこのコラムで書いているように、開脚=脚を開くことだと思っていることが背景あります。
脚を開けばいいと思っているので、左右開脚でも前後開脚でも脚を伸ばそうとします。でも伸ばそうとするほど骨盤が立たなくなってしまうのです。ではどうすればいいのでしょうか?
すんなり前後に伸びた開脚は、アーティスティックスポーツには必要な要素です。
新体操だと、手具を投げた後大きくジャンプしてキャッチする、この時の脚の開きが点数に大きく関わってくるからです。
特にバックル・スパイラルなど背中を反らせた技も多いので、前後開脚はとても重要です。
そのため、練習でも前後開脚は必須で、最終的にはブロックやイスの上に脚を載せて開けることが求められるのです。
が、相変わらずどのクラブでもおこなわれているのが、イスの上に脚を乗せて上から押す方法や、前後に脚を開いた状態で上から降りてくる方法です。
この方法ですんなり開けるならいいのですが、現在の多くのジュニアは、体力的に以前との子供世代と同じような体力は筋力が備わっていないケースが少なくありません。
指導するコーチや先生方が選手だった頃と同じ体力、筋力ではないのに、内容的に変わらない、もしくはもっと負荷の大きい内容をおこなっている。
これでは、ケガになりかねません。
2011年の震災後、遊び場や学校のグラウンドで外遊びができなくなったことや、カラダを使う遊びからゲームを使う遊びへ変化していった生活環境と関わりがあります。
日常の生活で大きくカラダを動かすことが、幼少期の体力をつくっているのに、その環境が変わってしまったため、柔軟性だけでなく、動きの巧緻性(細かな動き)が苦手というタイプも増えています。
カラダは、ダンスやアーティスティックスポーツをやるためにつくられている訳ではないので、そのためのカラダ作りが欠かせないのですが、クラブの時間運営上、練習時間の配分が技の練習に重きが置かれ、技をおこなうためのカラダ作りは各自に任されてしまっている、そういうクラブが多いと、来院する方から聞いています。
左右開脚で左右に脚が伸びるためには、坐骨でしっかり骨盤を立てて座れることが必須です。
左右開脚の場合、脚部と骨盤ががっちりくっついていると、前後に脚を伸ばそうとした段階で、左脚前だと左の腰が前に回ってしまい、後ろの伸ばそうとする右脚の膝が伸びづらくなります。
骨盤は、一つの骨と考えられていますが、実は幾つかのパーツに分かれています。
・左右にある面積の広いのが腸骨
・お尻の下にある坐骨
・前にあるのが恥骨
です。
そして股関節は前方、面積の広い腸骨の下の方にあります。
この股関節に脚の骨=大腿骨がはまっているので、単純に考えれば、脚を前後に伸ばせば、そのまま前に伸びた脚の股関節は前に、後ろの伸びた脚の方の股関節は、後ろの方に引っ張られます。
脚だけ考えて前後開脚してしまうと、ほとんどのケースで、骨盤が前後・斜めになってしまうのは、骨盤と脚がしっかり分離されていないからです。
特に
前後に脚を開いて上から降りてくる方法だと、
腕をぶらぶらさせて前かがみ
↓
背中が丸くなる
↓
骨盤が脚に引っ張られる
↓
結果、骨盤が斜めってしまう
が解決されません。
必要なのは、脚より上の部分。上半身、体幹と腕、そして頭部です。
上から降りてくると、大抵前屈みになって伸ばします。その様子はこちら。
この時の骨盤は、ほぼスタートから後ろに引かれた状態
↓
後ろ脚の股関節が頭の重みで更に後ろに引かれる
↓
結果、骨盤が割れる
になります。
つまり、腰を最初から前後になりやすい状態を避けることが必要なんです。
ただ、多くのクラブで、上から降りてくる方法がおこなわれているため、どうしても前屈みで前後開脚を続ける習慣
がついてしまいます。
前かがみの状態=背中が丸くなってしまう
そして、骨盤が斜めになって脚を前後の伸ばし続けた結果、一番大事な脊柱が苦手な方向や得意な方法に回旋してしまい、 重心がずれたまま続けると、脊柱がゆがんでくる結果になりかねません。
その状態で来院するジュニアは、新体操だけでなく、フィギュアスケートやバレエ・チアダンスに人にもいます。
脊柱は体幹にある重要な骨。
単なる背骨という存在だけありません。
中には神経が通っていて、運動や感覚や成長にも欠かせない大事な部分です。
その脊柱に歪みをつくってしまう、それも一番大好きなことを続けたいがために…
この状況はできる限り避けたいとあんじゅは考えています。
実は、昨年8月から、ロシア人のバレエダンサー兼バレエ教師の(ワガノワメソッド資格者)クラスでベーシックなワガノワを学び始めて半年経つのですが、このクラスでは、必ずコンディショニングとして、股関節の柔軟性を高めることと開脚を徹底的におこないます。
そのクラスで指摘されることは同じことで、骨盤を立てて開脚すること、背中は丸めないことと、です。
開脚前屈で、床に上半身が伸びない場合は、腰は立てたまま、膝をついていい、と指示されます。
新体操でもこれは同じことなのに、骨盤を立てることが徹底されていない。
これは、将来ケガにつながる場合が考えられるので本当に注意が必要なことです。
さて、今回紹介する11歳のHちゃんの場合は、肩の左右差が少なく、極端な内肩というタイプではありませんでした。
左右開脚で頭部に少しズレがありましたが、修正可能な範囲でした。
ジュニアの場合、新しいことを覚えてもらうよりも、クラブや稽古場でおこなっているストレッチや筋トレの姿勢を修正するところから始めます。
案の定、Hちゃんも全てのエクササイズ=脚を伸ばすこと、としておこなっているため、肩や膝、足首に無駄な力がはいって踏ん張っている状態でした。
その姿勢を一つひとつ修正するのに加えて、開脚本で紹介しているイス腹筋をしっかりおこなってもらうと、左右開脚でしっかり腰が伸びて前屈が完成。
骨盤が立った状況の左右開脚ができているなら、前後スプリッツもほぼ完成間近なのですが、彼女の場合、どうしても左前で骨盤が斜めってました。
その原因は、握力の左右差が大きかったことです。
得意左の握力は利き手である右に比べるとびっくりする程弱く、そのためカラダが左後ろに回わろうとするのを保っておくことができない状態でした。
握力は背中だけでなく、全体の筋力と関わっている重要な点なのですが、利き手である右手ばかりを使う現代の便利な生活が握力の左右差にも関わっていると考えています。
この様なケースでは、握力を改善するエクササイズを幾つかおこないながら、左右開脚から前後開脚を繰り返します。
その結果がこちら。
どうしても固まってしまっていた左脚がすんなり伸び、後ろ脚もしっかり伸びていた自分の姿にHちゃん自身はびっくりしていました。
トレーニングメニューでは、宿題を持って帰ってもらうのですが、今回はストレッチの姿勢を見直すことと、イス腹筋をすること。次回はその仕上がりをみて、更に開脚のレベルを上げていきます。
あんじゅの開脚改善メニューでは、何が開脚を阻害しているのかチェックして、必要なエクササイズを提供、カラダを痛めないでしっかり開くサポートをしています。
前後スプリッツがうまくいかない人
これを読んでも上から降りてくる方法を続けますか?
前後開脚・スプリッツでも大切なのは、骨盤を立てておくこと。ケガをせずに踊りやスポーツをするために、開脚はいいバロメーターになります。
もう一度見直してみましょう。
開脚と骨盤の関係についてはこちらの本でも書いています。
開脚改善メニューについてはこちら↓